持ち家のローンを払い終えれば確実に資産が手に入るという幻想

今日のお話しは、先日書きました持ち家は一点集中投資、賃貸は長期分散投資と本質的にはほぼ同じことを言っています。

しかし、世間一般に

  • ローンを払い終えれば資産が手に入るので持ち家は得だ!
  • 一生家賃を支払い続けても手元には何も残らないので賃貸は損だ!

という固定観念があまりにも強いため、その切り口からあえてもう一度書いてみます。

手元に残る持ち家の意味

ローンさえちゃんと返済すれば自分が所有権を持った物件が手に入るわけですから、資産が残るということ自体は事実です。

また使用中に価値が下がっていくとはいえ、その物件の価値がタダ同然にはならない場合が多いのも事実でしょう。

しかし問題の本質は、手元に残った物件の価値が残っているかどうかではありません。

手元に残った物件の価値が、不動産相場の変動が無かったと仮定した時のその時点の価値と比べて高いか低いか、それが本当の問題です。

例えば1,000円の株を購入してしばらくして株価が半値の500円まで下がった時、手元に500円分の株が残っているから自分は資産形成に成功したと思う人はいませんよね。

少なくとも株価が買値の1,000円以上になって初めて資産形成に成功したといえるのです(手数料などの細かい話は省略)。

家の場合は経年劣化で価値が減少していくという性質がありますので少しややこしいですが、経年劣化後の価値が不動産相場の変動が無かったと仮定した場合の経年劣化後の価値以上に残っていれば資産形成は成功といえます(つまり不動産相場が上昇した場合)。

逆に、経年劣化後の価値が不動産相場の変動が無かったと仮定した場合の経年劣化後の価値以下しか残っていなければ、たとえ価値がゼロではなかったとしても資産形成は失敗したといえます(つまり不動産相場が下落した場合)。

賃貸との比較で考えると

賃貸との比較ということで考えると、持ち家に住むのにかかった総コスト

  • 持ち家購入にかかった総費用 + 住んでいる間にかかったメンテナンス・維持費用 – 最終的に残った物件の価値

が同じ期間同程度の賃貸に住むのにかかる総コストと比べて安ければ持ち家が得だった、逆ならば賃貸が得だった、ということになります。

ここで、賃料には大家の利益分が乗っかっているので、賃貸の方が絶対に損をするはずだと主張される持ち家派の方がおられます。

確かにその点は持ち家に有利に働くポイントですが、残念ながら不動産価格の変動リスクを完全に無効化するほど強力な武器ではありません。

持ち家を買ってから不動産価格が下落すると、持ち家の価値が下がるとともに賃貸側は賃料が低下しますので、その有利さは簡単に吹き飛んでしまいます。

また持ち家には、天災リスクという別のリスクが潜んでいることも忘れてはいけません。

確率は低いですが、万一天災で家を失うような事態に遭遇すると、上で書きました持ち家の総コストに「代替の住居を準備する費用」というとんでもなく大きいコストが更に上乗せされることになります。

家を買うなら裏に潜むリスクも認識した上で

前に書きました記事へのコメントで、持ち家には賃貸では得られない断熱性や防音性などのクオリティがあるということを教えていただきました。

確かにそういう違いがある場合はあるのでしょうし、そういうハイグレードな住居を求める人もいるのだと思います。

ただそういう要求を満たすために持ち家を買うという決断をする前に、その裏に潜むリスクについても認識しておいてください。

家を買うという行為には、数千万円の掛け金を賭けて不動産相場が上がる方に賭ける、というギャンブル的側面が存在します。

ギャンブルに勝てば(不動産相場が上がれば)家に住みながら大きな利益を得られますが、逆に負ければ(不動産相場が下がれば)大きな損を背負うことになります。

しかも、通常の投資ならリスクを軽減するためによく使われる複数銘柄への分散や、購入時期の分散というテクニックが使えません。本当の一発勝負です。

また、買った家が天災に遭うか遭わないかというギャンブルの面もあります。

持ち家を買うのは、自分がこれらの賭けに負けない腕 or 運を持っているという自信がある方か、賭けに負けても後悔しないという覚悟を決めた方だけにしておくほうが無難です。

少なくとも、他人の「持ち家は得だ!」という意見を信じ切って買ったり、良い家に住みたいという思いだけで買うには、賭けるものが大きすぎます。

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『持ち家のローンを払い終えれば確実に資産が手に入るという幻想』へのコメント

  1. 名前:yoshida 投稿日:2015/05/16(土) 22:22:27 ID:4cc0ca146 返信

    長期的に見て株は半額になったらそのまま損失になりますが、住宅の場合はその間家賃を支払わずにローンなりの返済に充て住宅に住んでたわけですから単純に比較できません。
    買い値以上にならないと資産形成と言えないというのは詭弁です。

    • 名前:観楓 投稿日:2015/05/16(土) 22:27:43 ID:c07384868 返信

      yoshidaさん、コメントありがとうございます。

      家の場合は「買い値以上にならないと」とは言っていませんよ。

      「不動産相場の変動が無かったと仮定した場合の経年劣化後の価値以上に」と言っています。

  2. 名前:aokitrader 投稿日:2015/05/16(土) 22:54:11 ID:2ee15435c 返信

    はじめまして。いつも楽しみに見ています。

    住宅ローンを組んで不動産を購入するということは、レバレッジを使った不動産投資と一緒ですからね。ポートフォリオの「不動産比率」が一気に高まるわけですから、住宅購入する際は慎重に選ぶ必要があります。

    • 名前:観楓 投稿日:2015/05/16(土) 23:37:02 ID:c07384868 返信

      aokitraderさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

      そうですね、持ち家を買っている人には自分が実質的に不動産投資と同じことをしているとは認識していない人が多そうです。

      知らないうちに、おそらく人生最大級の投資に参加してしまっている、というところがある意味恐ろしいところです。

  3. 名前:さいもん 投稿日:2015/05/16(土) 23:30:45 ID:1c7515901 返信

    株の話が出たので、相場について意見を述べさせて頂きます。
    私個人の意見では持ち家と賃貸はイーブンだと思ってますが、理論的、本質的に仮にどちらかが有利だとしても、現実世界では常に相場(需給要因)があります。
    相場の観点では戦後からバブル経済ごろまでは一貫して人口が増え続けたので持ち家有利、それ以後は人口が減少し続けるので賃貸有利、ということではないでしょうか。
    人口に関係なく需要があるのは街の中心部の商業用地で住宅地じゃないんですよね。

    もちろん相場なので上げ相場の買いで損する人も居るし、下げ相場の売りで負ける人も居ます。
    腕次第というのはそういうことだと思います。

    住環境に対する満足度やコストパフォーマンスと土地の相場は切り離して考えないと、永遠に議論が終わらないと思います。

    • 名前:観楓 投稿日:2015/05/16(土) 23:55:12 ID:c07384868 返信

      さいもんさん、コメントありがとうございます。先日は飲み込みが悪くて失礼しました。

      ご意見、おおむね同意です。

      元々条件・状況次第でいかようにもなる話ですので、綺麗に決着するのは難しそうですね。

      およそ人の議論の対象になることで絶対にどっちが得、というような結論が出ることはまずあり得ない(あり得るケースは元々議論になっていない)と思っておりますので、明らかにおかしいところが少しでも解消されれば、というくらいの気持ちでやっております。

  4. 名前:horizon 投稿日:2015/05/17(日) 01:57:20 ID:626f601cf 返信

    「持ち家は得だ!」との考え方が、世間一般で思われていることなのでしょうか?

    サブプライムローン前のアメリカのようなことや日本でのバブル時代のようなことが、人口が減少していく今後の日本で起こるとは考えにくいです。
    さいもんさんもおっしゃるように、住宅用の土地は今後値下がりしそう、という見方が多数派なのではないでしょうか。

    それなのに持ち家を買うというのは、アパートやマンションなら賃貸がありますが、一軒家的なものは賃貸が少ないという問題があるからではないでしょうか。
    断熱性や防音性もそうですし、家族向けの住宅では、賃貸の供給が少なく、新築一戸建ての供給が多いと思います。
    例えば、首都圏で子供数人の家族ですと、なんとか通勤圏の一戸建て住宅を買う以外の選択肢が非常に少ないと思います。
    その場合、「持ち家は得だ!」というよりも、逆にハイリスクでも買うしかないという状況だと思います。

    そうすると、資産形成目的で家を買っているというよりも、耐久消費財(自動車、パソコン)と同様に、必要に迫られて買っているという側面が強そうです。
    Apple IIやToyota 2000GTが買ったときの値段よりも高く売れたという場合も例外としてありますが、通常は売却時には損をすると分かってて買うと思います。

    また、住宅ローン減税等の政策が新築に偏っているのも、持ち家購入のモチベーションを高くしていると思います。

    • 名前:観楓 投稿日:2015/05/17(日) 09:29:08 ID:2359d9559 返信

      horizonさん、コメントありがとうございます。

      確かに戸建ての賃貸は少なそうですが、マンションも含めればファミリー向けの分譲と賃貸、どちらかが一方的に少ないということはないんではないでしょうかね(統計など調べたわけではありませんが)。

      耐久消費財として損するのを承知で買うなら、それは私が書きました「賭けに負けても後悔しないという覚悟を決めた方」に該当しますので、それはそれでありだと思います。

      ただ、家賃を一生払い続けて何も残らないという恐怖感と、その対極にある一定期間の支払いで家という資産が手に入るという安心感から、持ち家という選択をしてしまう方はやはり依然としていらっしゃるようですよ。

  5. 名前:消費しないピノキオ 投稿日:2015/05/17(日) 11:51:36 ID:47d5cf643 返信

    総コストでの比較というお話
    その通りだと思います

    賃貸:割安な賃料で借りること
    購入:割安な価格で買うこと

    これに尽きる話だろうと思います

    プライシングがなんのミスもなく
    需給関係に偏りもなく
    一切の鞘抜きの余地はなく
    価格が一意に決定されるという
    理論上、仮想上の市場を想定すれば
    とても味気ない話になってしまいますが
    そうではないから、ドラマチックです

    結果的に損する人と得をする人が出てきます

    • 名前:観楓 投稿日:2015/05/17(日) 12:08:25 ID:2359d9559 返信

      消費しないピノキオさん、コメントありがとうございます。

      そうですね。一般的なコストの損得を考えるなら、「一生払い続けで何も残らない」とか「一定期間の支払いで資産が手に入る」とかいう表面的なイメージに囚われないで、トータルのコストを冷静に見積もる必要があると思います。

      その上で、アベレージを上回る利益を上げる腕に自信がある方は、リスクがあることにも挑戦すればいいと思います。

  6. 名前:きのこ 投稿日:2015/08/10(月) 23:10:37 ID:b2e7dcbe1 返信

    初めまして、数日前にFXのスワップの記事でこのブログにたどり着き
    とても共感できる記事が多く、
    初めの日からこの日まで全部の記事を読ませて頂きました。

    今は30歳でIT系フリーランスで働いており、ブログを拝見して
    自分も50歳くらいでセミリタイアしたいと思いました。

    持ち家と賃貸についてですが
    私もよく考えています。
    住み替えの可能性がないのであれば持ち家が得だが、
    転勤、転職、結婚、離婚、近隣問題と
    住み替えになる可能性は人生に置いて結構あるものなので、
    そのリスクを考えると賃貸が良いと感じています。
    貸せば良いという人もいますが
    そんなに簡単ではないと私も思ってます。
    空き家、悪質入居者、ゴーストタウンリスク等。

    また、投資用賃貸用マンションを買って
    もし空き家になる場合は自分が住むというのも考えて調べてみましたが
    本当に利回りや立地が良い物件は不動産屋がそのまま経営すればよいですし、
    贔屓にしている客に売るものです。
    ですので良い物件は一般に出回るまでになくなり、
    不利な物件を掴まされるだけなのではないかと思っています。
    不動産屋を儲けさせるだけかと。
    ただ、減価償却できるので節税を考えればありかもしれません。
    しかし結局、
    持ち家と同じリスクがありますし、
    投資用マンションローンは割高ですし、
    一括購入してしまうと
    貯金がなくなり分散投資という意味ではやはりリスキーです。

    結局のところ不動産投資はハイリスクハイリターンであり
    目利きも必要ということかと思います。

    そういった様々はリスクを負わないというのが賃貸最大のメリットと感じています。
    確かに割高になるかもしれませんが、
    そのリスク回避と思えば損だとは感じません。

    私個人の話になりますが、
    この先結婚も多分しないので
    50くらいまでは賃貸で
    リタイアしたら通勤を考えなくてよい
    安い中古物件を買うか実家に戻るかと考えています。

    • 名前:観楓 投稿日:2015/08/13(木) 12:21:13 ID:554541b71 返信

      きのこさん、コメントありがとうございます。

      つい最近も35年住宅ローンのことを書いた某ブログを中心に大論争になっていましたが、不動産は人によって考え方が様々ですね。

      数十年にもおよぶ先の見えない長期投資であり、しかも生涯年収の何割にもあたる集中投資であることのリスクをちゃんと認識していれば、あとは買うか買わないかは人それぞれの考え・都合だろうと思います。

      私の場合は当面賃貸で、高齢になって万一賃貸が見つからないような事態になったら安い物件の購入も視野に入れようかと思っています(そのためにも賃貸派は資産管理が重要ですね)。

      旅行に出ていてコメントの承認が遅くなってしまい、申し訳ありませんでした(同じ内容がもう1つ投稿されていましたので、そちらは削除しました)。

  7. 名前:ヤス 投稿日:2016/12/05(月) 02:25:51 ID:94ed96d7a 返信

    FAですね。 いやあ、1年遅れで、山中先生やひでぼう先生の議論を読みまして、反面教師として、この1週間、本当に勉強になりました。彼らのすごい圧力に圧倒されたのですが、向こうの手の内はだいたいつかめました。
     不動産購入は、消費と投資の二重性があるので、いろいろ誤解が生まれがちですね。他のエントリーの図が、正しいです。
     もちろん、ケースバイケースで、どちらが絶対によいとは言えませんが、マクロ的な時代(人口動態、成長)やミクロの収入や資金力や 家族の人数や 家族の嗜好で かなり冷静に場合分けができるでしょう。高度成長期なら、地価、住宅も上昇するから、売ることも貸してもよいし、賃貸並みの自由があったから圧倒的に持ち家有利でしょうね。
     山崎元氏の話は、鋭いですが、持ち家のボラティリティをJ-REITのボラティリティで代用するのは ちょっと誤りですね。確かに、不動産のボラティリティは、もっと低いです。橘怜氏の論議も、鋭い点はたくさんあるのですが、信用取引のたとえは、住宅ローンとは、ちょっと違うようです。賃貸と購入、大まかには裁定が働いて、どっちかが圧倒的に有利ということはないというのは正しいでしょう。
     あと、山中先生が貼り付けていた家賃のグラフがバブル崩壊後も、上がり続けているのは、賃貸の質の向上を反映している部分もあり、ヘドニック価格調整をしないとわかりませんね。昔は、4畳半のトイレ共同のアパート、1980年代は、ユニットバスのワンルームマンション、現在ではいつの間にか、バストイレ別が当たり前になってきています。
    医学のコーホート研究のように、同じ物件が老朽化によって、家賃が下がって行くこともあります。

    • 名前:観楓 投稿日:2016/12/05(月) 17:34:37 ID:a95593f42 返信

      ヤスさん、コメントありがとうございます。

      私なんかより、よほど知識がおありのようですね。

      私はこの議論の時に泥縄式に調べて知識を仕入れていきましたが、それでも基本的には不動産については門外漢ですね。

      ただこの議論を通じて自分の中での不動産に対する向き合い方は明確になりましたので、結果的には良かったと思っています。

  8. 名前:ヤス 投稿日:2016/12/15(木) 01:50:52 ID:c5cdf81c7 返信

    私も、観楓様が勇気を持ってあの論争に取り組んでいたおかげで、考えるところがあり、不動産への態度がより明確になりました。まだ、悟れてはいません。奥が深いです。だから、研究対象として、ワクワクします。
     一つ、千の検索の結果、山中さんも合っているのかもしれないと思ったことがあります。首都圏と田舎では、全然違うということです。
     田舎だと、賃貸の供給が少なく、大家に独占力があり、家賃は高く、逆に、地価などが安いので、本当に戸建てを買った方が有利のようですね。賃貸の半額というのは、大げさですが、1500万円で、キャッシュで戸建てを建てた人がいますので、田舎では、持ち家有利なのでしょう。そのような田舎には、今、仕事が少ないので、今後は、あまり参考になりません。これから、買物する場や病院もなくなるでしょうし。
     人口が多い100万都市以上では、やはり、VSは、総額によるきわどい計算となり、ケースバイケースでしょう。あと、田舎では、賃貸というと、木造アパートと一戸建ての比較となり、賃貸の評判がすこぶる悪いですが、首都圏では、賃貸マンションと、分譲マンションの比較となるので、この点でも、かなり微差となります。ひでぼう先生は、防災になると、木造アパートを当て馬にして、倒壊して死亡とかいいますが、鉄筋の賃貸マンションならば、倒壊はないので、そう差はないでしょう。賃貸は死にさえしなければ、民法によって、原状回復義務はないのに対し、分譲マンションは、補修の負担が大変。分譲も傾斜マンション問題がある。免震とかも、どこまで効果があるか不明。
     分譲の方が設備がすごいというのも、最近は、賃貸マンションも、クローゼット、オートロックなどもついてきており、エアコンとか家電の最上位機種のように、何とか天板の豪華キッチンとか、豪華ロビーとか、無駄な機能で、分譲価格や管理費を高く取り過ぎなような気がします。まあこの辺は、贅沢品への嗜好なので、買いたい人には価値がありますが。

    • 名前:観楓 投稿日:2016/12/15(木) 15:28:11 ID:30eef90c8 返信

      ヤスさん、コメントありがとうございます。

      大都市、その中でも特に東京は比較的不動産に有利な状況があるのでしょうね。そのせいもあってか持ち家派の人が持ち出してくるデータには東京に特化したものが多いです、

      でも持ち家派の人にあなたの主張は東京に限ったものかと聞くと、そうでは無いという人が多いんですよね。

      その東京でさえも、今後20年〜30年というスパンで考えた時に今までのような不動産有利の状況が続いているかは定かではありませんし、やはりどっちかが絶対良いというような決め付けはできませんね。