このブログでも度々ご紹介している経済評論家 山崎元さんが書かれた以下の記事が、昨日「現代ビジネス」のサイトで公開されました。
持ち家が得か、賃貸が得か―― この難題に、ひとつの答えを出そう | 山崎元「ニュースの深層」 | 現代ビジネス
持ち家を買う場合のリスクなどについて良くまとまっている記事だと思いましたので、自分のTwitterやFacebookページでもご紹介しましたが、他の方もネット上で結構話題にされているようです。
この記事では、持ち家に関してよくある勘違いやミスリードのパターンについて、かなり網羅的に解説されています。今日はその点について書いてみます。
持ち家が得か、賃貸が得か
「持ち家か、賃貸か」は一概には決められない。主として、家賃と不動産価格との間の関係で決まる。不動産価格が高すぎるなら賃貸がいいし、不動産価格が十分に安い時は持ち家がいい。
不動産価格の高低の判断基準は、「自分が払うはずの家賃も含めて収益と見なした時に、リスクに見合うリターンがあるかどうか」だ。
いきなり結論めいた話になりますが、基本はこれですね。
持ち家派の人には「持ち家が絶対得だ」と言いたがる人が多いですが、持ち家も賃貸も長年生き残っていることから考えても、絶対的にどちらかが得というような話はまずあり得ません。
持ち家のリスクとリターンについて
あれこれの事情を考慮すると、個別の不動産物件に対して、標準偏差では9%の倍の18%くらい、せめて15%くらいのリスクを見ておきたい。
他方、内外株式へのインデックス投資だとリスクが18%程度で、期待リターンが金利プラス5%見込めるとするなら、金融資産への投資の方がリスクとリターンの効率が良かろう。 (中略)
取引コストを考え、メンテナンスのコストも考えると、3~4%という家賃利回りは実質で1%以上低下し、実質的な投資リターンを圧迫するだろう。
不動産の専門家が書いた本に書かれている家賃利回りやJ-REITの取引価格実績などから持ち家のリスクとリターンを推定してみると、内外株式へのインデックス投資の方が効率が良さそうだというお話です。
もちろんこの推定には著者が設定した仮定が入っていますので、細かい数値については異論のある方もおられるでしょう。
しかし、いずれにしても変な直感や思い込みでどちらが得だなどと決めつけず、定量的にリスクとリターンを見極める姿勢が重要です。
物件の目利きの効果について
「いい物件を選ぶと値上がりするマンションはある」という意見もあろうが、これは「全体が下げ相場でも、銘柄を上手に選ぶと儲かる株は必ずある」という証券マンの根拠無き断言に近いと言っておこう。少なくとも、事情通ではない「普通の人」は、自分には無理だと考えておくべきだ。
不動産市場の非効率さなどを理由に「探せば得な物件が必ず見つかる」とか「物件をちゃんと選べば大きく値下がりすることはない」と主張する持ち家派の方もおられます。
しかし持ち家への投資は先の見えない数十年もの長期投資あり、専門家でも先行きを正確に予測することは困難です。
よほど自分の実力か運に自信がある人以外は、必ず市場を出し抜けるとは考えないほうが妥当でしょう。
住宅ローンを組んで一点集中投資するリスクについて
期待リターンが必ずしも高くなくても十分プラスならいいではないか、という考え方もあろうが、これは、資産のごく一部を不動産に振り向ける場合にいえることで、住宅ローンを組んで自宅用のマンションを取得するような、普通の所得と資産の家計にはマンション購入は過大なリスク・テイクと思われる。
仮に、2000万円の自己資金があって、6000万円のマンションを買う場合、3倍のレバレッジを掛けて長期間にわたる信用取引をするようなリスク・テイクとなる。少なくとも、リスクの取り方として上手いやり方ではない。
持ち家派の方には、住宅ローンの場合は替わりに不動産が手に入るので、実物資産の裏付けが有るから信用取引のようなレバレッジ投資とは違うと考える方もおられます。
しかしその方は、買った物件が値下がりして資産価値の裏付けが毀損する可能性があることを見落としているか無視しています。
通常の投資では、投資先を分散することで値下がりに対するリスクの軽減を図りますが、一点集中投資の持ち家ではそれが困難である以上、やはり大きなリスクを取っていることは否定できません。
現在の住宅ローンの低金利について
不動産投資の利回りよりもローン金利の方が低いなら儲かっていると考えるのは、リスク付きの利回りである不動産投資のリターンと、リスク無しで返さなければならないローンの利回りを、リスクが異なるにも関わらず直接比較する誤りを犯している。(中略)。
また、低金利で借りていて、将来金利が上昇すると、負債側では儲かっているような気になるかも知れないが、不動産価格は金利上昇によって下落するので、トータルでは儲かっていないことが起こり得る。
持ち家派の方がよく主張する現状の住宅ローンの低金利の有利さについても、必ずしも一方的に有利とは言えないというお話です。
金利が不動産価格に与える影響については自分もよく認識しておらず、眼からウロコでした。金利と不動産価格の関係については、もう少し勉強してみたいと思います。
持ち家がインフレ対策になるという話について
不動産価格の決定原理を考えると、家賃上昇率と金利の上昇率のバランスが問題になる。家賃に上昇期待が生じ、しかし金融緩和で金利が抑えられているインフレの初期はこのバランスが両方とも不動産価格にプラスに働くので不動産価格が上昇しやすい。これは、アベノミクス導入以降、最近までの不動産価格上昇の背景でもある。
一方、インフレ率が上昇してこれを抑える段階に入ると、金利の上昇が家賃の上昇率を上回る事態が起こる公算が大きい。この場合、不動産の理論価格は下落することになる。インフレの場合に、不動産が常に有利な運用資産ではない。
インフレがまだ本格化しておらず、金利を抑えてインフレを誘導しているうちは不動産投資に有利に働くが、実際にインフレ率が上昇して金融緩和が出口戦略に動き始めると、必ずしも不動産が有利とは言えないというお話です。
上の低金利の話とも絡みますが、必ずしも現状の有利さだけを見て持ち家購入には走らないほうが良さそうです。
というわけでこの山崎元さんの記事では、持ち家・賃貸論争で議論の焦点になりそうなポイントがズバズバと切って捨てられています。
もちろん人の価値観や考え方は様々ですので、「リスクがあることは承知の上で、それでも持ち家を買いたい」とか「この話のこの部分には納得出来ない」と考える方はおられるでしょう。そこは最終的には、各々の頭で考えて自分で結論を出すしかありません。
しかし、少なくともこの記事を読んで何を言っているかよく分からない部分や、納得出来ないが論理的には反論できない部分がある方は、家を買うという一生に関わる重大判断をする前に、もう少し投資について勉強してみることをお勧めします。
今頃でまったくお恥ずかしいのですが、
こちらの記事に先ほど気がつきまして、
それからこの持ち家or賃貸についての一連の記事を拝読させていただきました。
私もちょっと前にこの件について記事やコメントを書いたんですけど、
私が言いたいようなことは全て、
と言うか、それより遥かに深い内容の記事が既に書かれていたことを知って、
顔から火が出るような気持ちになっております。